右手に患ったフォーカル・ジストニア (局所性ジストニア②)
 私は2004年の年末頃、右手にフォーカル・ジストニア(局所性ジストニア/部分ジストニアとも訳される)というものを発症しました。
 修飾語のつかない「ジストニア」という病気は、体に過緊張やこわばり、捻転の起こる病気で、パーキンソン病の治療の副作用などで起こることが知られているものですが、私の患ったフォーカル(局所性)・ジストニアというものは、これとは全く別のもので、取り扱う上では区別が必要です。
 フォーカル・ジストニアは、音楽家、スポーツ選手、物書きなど、仕事の上で繊細で複雑な動作とスピードが要求され、ミリ単位以下のフォームのずれや、スムーズさの欠如によって結果が大きく変わってくるような分野で、特定のわずかな筋肉の動きのコントロールが限定的にうまくいかなくなったり、特定の指がある動作の時のみ動かなくなったり、勝手に動いてしまったりといったことが起こり、活動に支障をきたすという、非常に不思議な病です。
 とはいえ、症状のある部分に普段痛みなどはなく、何かのウィルスや細菌に侵されたわけでもないので、私は「病気」という言葉で表すのには多少違和感を持ちます。
 ですがこれこそが・・・この「第三者から見ても異常がよくわからない」のに、明らかな異常により活動が極めて困難になり、また治すのが非常に難しいということが、このフォーカル・ジストニアの大きな苦しみです。
 完全に治そうとするときに、外的な処置によって治療を「してもらう」事は非常に困難で、これを治療するには最終的には本人の意志と根気と柔軟な思考が必要である事と、その性質から治療に長い時間を要することがほとんどな事から、なかなか克服することができず悩み抱えている人や、キャリアや夢を断たれてしまう人が多くいるのです。でもまた一方で、克服している人がたくさんいるのも事実です。

 音楽家に限った症状としては、演奏するという特定の動作をしようとしたときのみに、特定の指や筋肉がこわばって動かなかったり、自分の意思に反して動いてしまい(指を手のひら側に巻き込む、逆につっぱるといった動きが顕著)、ピアノの場合を例に挙げれば、意図しないところでキーを押してしまったり、キーを押さないでいることができなくなったり、指がキーから滑り落ちてしまったり、キーにひっかかってスムーズに移動ができなかったりといった症状をもつものです。
 症状の出る場所に特に痛みは無く、腫れたり変色したりといった見た目の変化も全く無く、日常生活ではほとんど何の支障もありません。(症状や程度によっては支障が出る例もあります)
 
 ただこれまで弾けていたものが急にとにかく弾けなくなってしまうのです。
 
 フォーカル・ジストニアを患った手は実際どんな感覚なのかというのを、何かに例えてご説明するとすれば・・・冬の寒い日に手袋をつけずに外に長くいると、手がかじかんでうまく力が指先まで伝わらず、うまく動かせなくなりますね。小学校や中学校時代に、冬の体育の授業の後着替える時に、ボタンのシャツがうまく閉められなかったことを思い出します。そのかじかんだ感じから、寒さや冷たさ、痛さを取り除いたような感じ。なんだかわからないけれど力がうまく伝わらなかったり、指が意志に反して動き、鍵盤を押してしまう・・・そういう感覚が、楽器を弾こうとする時や、動作の似ているパソコンのキーを打とうとするときなどになると起こるのです。

 私の場合はこれによって、演奏する時に右手の正常なコントロールが困難になり、4歳でピアノを始めてから発症した21歳までに習得してきたレパートリーが一度全て弾けなくなりました。以来専門医のアドヴァイスを受けながら、自分でも工夫を加えてリハビリを行い、そのうち色々な楽器の同じ悩みを持つ音楽家と出会い、情報交換をし励ましあいながら治療を続けてまいりました。数年間は左手のために書かれた作品を研究・演奏しながらリハビリに専念し、試行錯誤と紆余曲折を経ながら徐々に回復を重ね、2014年現在ほぼ克服に至っています。
 ご興味のある方は、スケジュールのページで当時から現在までのスケジュールをたどっていただくと、発症から段階を経ながら回復してきた様子、どのように右手に無理をさせないようなハードル設定で選曲をし、回復させてきたかというのをご確認いただけると思います。
 
 フォーカル・ジストニアの原因や治療については、医学的には研究途上で、謎な部分もありますが、私は、フォーカル・ジストニアは、周囲の理解と協力を得ながら最終的に自力で治すことのできるものだということを、発症した当初から確信しており、それを身をもって証明するということを一つの大きな目標に、現在はリハビリの最終段階=「第3者にはほとんど認識できないような、自分自身が感じている改善したい問題を改善し、発症前よりも明らかにうまくなること」に取り組んでいるところです。 実際に治療と向き合う原動力の核となっているのは、それよりも大きな目的で、どうしても表現したい、到達したい音楽、弾きたい作品があり、治さないわけにはいかないという気持ちです。

 私はフォーカル・ジストニアを完治させる万能な方法をマスターしている訳ではありませんが、現在実際にフォーカル・ジストニアを患いその困難と向き合っている方々へ、私の経験や情報を一つの実例として提供し、その中からヒントを見出していただくことがあればという意図と、その周りの方々や一般の多くの方々へ、フォーカル・ジストニアについて少しでも知っていただき理解を深めていただきたい想い、そして私自身これまでの経験を振り返り、整理することで、今後のこの病気の治療に役立てたいということもあるので、私の経験、行ってきた事、思いついたこと、自分が患ってみて思うこと、治療に対する考えなどを、このブログ上に少しずつ書いていきたいと思います。

 更新は不定期になってしまいますが、これに関する記事は、ページ左のcategory欄、音楽家のフォーカル(局所性)・ジストニアからまとめて読んでいただけるようにいたします。

【2014/09/18 13:50】 音楽家のフォーカル(局所性)・ジストニア | トラックバック(-) | コメント(-) | page top↑
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