参考にしてきた書籍 (局所性ジストニア③)
 私がフォーカル・ジストニアの診断を受けた2005年頃に比べて、近年はこの病気について取り上げた本がどんどん増えてきていて、書店や楽譜を扱う楽器店などでも多く見かけるようになってきています。
 ここでは、私自身がフォーカル・ジストニアの治療に当たって、実際に手にして読んできたものをご紹介します。
 この病気の事や身体のしくみについて勉強するため、発症する原因となり得た、本来自分の抱えている問題点を把握し、治療する為の多くのヒントを得るために、色々読みました。
 読んできた本を振り返って並べてみると、そこには、ある程度私がこの病を治すために、どのような情報にヒントを求めアプローチしてきたかというおおよその方向性も表れているように思います。

 文献から情報を得ようとする時、特に楽器の奏法、身体の調整に関するメソッドの書かれた本から情報を取り入れようとする場合には、自分自身が、最高に責任と愛情をもった自分の教師・コーチになり、また主治医になったつもりで、唯一無二の大きさ・形をした自分の手、身体に合った情報を取捨選択し、無理のないように気をつけながら応用していくことが重要です。(というのは、短期間に第3者による方法で脳のプログラムを書き換えることにはリスクを伴うからです。私自身がフォーカル・ジストニアを発症することになった大きな原因のひとつが、短期間に全く新しい練習法を取り入れ奏法を変えた事だと考えています。)
 万人に当てはまるメソッドは存在しません。ただ、様々なメソッドや流儀、考え方について読み溜めていくと、その中で意見が分かれている部分と、共通する「真実」に近いと思われる情報とが浮かび上がって見えてくるようなこともあります。

 得た情報が自分の演奏やリハビリに役立つ「タイミング」もその都度あると思います。
 私の経験では、症状の重さや治療の段階によって、リハビリの進め方に変化が必要でした。
 特に重症であったり治療の初期の段階では、極力単純でシンプルな動作から脳を整理することをゆっくりと慎重に進める必要がありました。
 治療の中期以降、勝手に指が動くような極端な症状がほぼ無くなってきて、それに関しては不安を抱えないだけの余裕がある状態に落ち着き、あとはスピードがある段階(無意識的な反射を必要とする段階)以上へなかなか上がらないという段階では、その大きな壁を突破するため、ダイナミックに発想やイメージの転換をしながらあらゆる角度から攻める必要が出てきました。 またその状態から症状を再悪化させずにキープし、安定させる工夫も必要でしょう。
 治療の段階や自分の精神状態に応じて、情報の見え方も変わってきますから、一度読んだ本を時々読み返してみることも有効でしょう。

 常に自分の身体に耳を傾け、感謝すること、同時に、症状の経過と自分の感覚、実技の勉強を始めた時から演奏を上達させてきた経験等を照らし合わせながら、適切な情報を選ん取り入れ、応用していくことが私自身には有効でした。

 以下、私の手元にある書籍を、参考にしてきた時系列順にご紹介します。これらは今まで、そして今でも思い立っては読み返し、新たなイメージやヒントを得たり、自分の向かっている方向性に確信を得たりするのに役立てているものです。(最後の2冊は最近入手したばかりで自分ではまだ読破していないものの、局所性ジストニアについての最新の知見のつまった重要なものだと思われるので載せました。)

 人によって情報の合う・合わないの度合いは違うと思います。自己責任を前提に、少しでもヒントを探す上でのご参考になれば幸いです。またピアノ以外の方へも、応用していく手がかりになればと思います。

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①ピアニストの手
 ―障害とピアノ奏法―
 (酒井直隆 著 ムジカノーヴァ叢書)

 私の主治医であった酒井直隆先生の本で、ピアニストの手の障害の概観や、その治療法などについて研究されたことの書かれた本です。僕はフォーカル・ジストニアを発症する前にも、別の腱鞘炎などの故障で酒井先生にかかっていたことがあり、そのときから所有していた本で、まず診断を受けると、手始めにこの本から、自分の診断された病気がどのようなものなのかをおおよそ知りました。



②ニュートン2007年2月号
 なぜ覚えられる?脳のニューロンと記憶のしくみ
 ―脳科学の最前線から徹底レポート―
 (ニュートンプレス)

 科学雑誌ニュートンの2007年2月号。脳の仕組みをもっと具体的に知りたいと思っていたところ、ぴったりのテーマが、たくさんのカラーの図とともに書かれていて購入しました。この本から得た情報は、自分でイメージしていた「砂場につくった川」のイメージの方向性に確信をもたせてくれました。雑誌なのでアマゾンには中古品しか無いか、あるいはまったく在庫が無い可能性もありますが、どこかからバックナンバーを申し込める可能性はありますし、この雑誌の性質上おそらく定期的に同様のテーマの号も出てくるのではないかと思います。医学の完全な専門書では専門家でないと難しすぎることも、雑誌であるためわかりやすくなっている部分はあると思います。



③その他(画像なし)
 脳や身体のしくみ、自然の法則などについて確認し学ぶ為に、

・高校時代の物理の教科書
・高校時代の生物の教科書
・2005年、大学4年で履修した、応用医学研究という授業でもらったレジュメ。 (主にうつ病など心療内科的な疾患と脳のしくみとの関係についての授業でした)
・医学部の友人から送ってもらった手指の解剖図表。
・友人や後輩が見つけて提供してくれたフォーカル・ジストニアの治療に関する新聞記事

 なども参考にしました。



月刊ショパン(画像なし) 

 2003年11月号
 2004年9月号
 2004年11月号
 2005年1月号

 当時たまたま手元にあったこれらには、神経内科医とピアニストという二足のプロフェッショナルなわらじを履いておられる、上杉春雄先生の連載で、部分ジストニアの事が書かれており、フォーカル・ジストニアについて理解したり、同様のジストニアを抱える友人達や、周りのひとへ音楽家のフォーカル・ジストニアについて理解していただく上でも有益な記事でした。
 上杉先生の書かれた記事は、今でも時々月刊ショパンその他あちこちで見かけます。



⑤シャンドール ピアノ教本
 ―身体・音・表現―
 (ジョルジ・シャンドール著、 岡田 暁生、 大久保 賢、
  小石 かつら 、佐野 仁美、大地 宏子、筒井 はる香 翻訳 春秋社)
 
 ピアノをベラ・バルトークに、作曲をゾルタン・コダーイに師事し、バルトークの3番のピアノ協奏曲を初演した大ピアニストの著書(シャンドール氏は往年の大ピアニスト達が演奏とともに紹介された映像作品「Art of Piano」でもインタビューに登場しています)。私とは違う体つきと違う大きさ・形の手をもつ大ピアニストによって書かれたピアノ奏法なので、当然100%全てを自分に適用できるわけでは無く、情報を精査して取り入れていますが、私にとっては、ジストニアを治していく上で、またピアノを弾くこと全般について大変多くのヒントを得た重要な本です。特に、度々書かれている「コーディネートする」という概念は、フォーカル・ジストニアの治療の上で重要なキーワードに思います。



⑥ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと
 (トーマス・マーク、トム・マイルズ、ロバータ・ゲイリー著、
 小野 ひとみ 監訳、古屋 晋一 翻訳 春秋社)

 ご自身も身体の事で色々とご苦労を乗り越えてこられた大先輩音楽家の方から頂戴した本です。
 アレキサンダー・テクニークの見地から、自身の体について理解を深め正しくマッピングするためのさまざまなて手がかりが書かれてあります。症状のある箇所だけにフォーカスするのではなく、体全体に意識を向け整えることはフォーカル・ジストニアの治療の上で大変重要な鍵だと考えています。今でも度々読み返しては新たな気づきや発見を繰り返しています。
 現在はこのシリーズで他の楽器の奏者や歌手に焦点を当てた本も色々出ているようです。



⑦音楽家ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと
 ―アレクサンダー・テクニークとボディ・マッピング―
 (バーバラ・コナブル 著、片桐 ユズル、小野 ひとみ 翻訳、
ベンジャミン・コナブル 本文イラスト 誠信書房)

 こちらはピアニストに限らず全ての音楽家へ向けた、からだのことを理解しなおす助けになる本です。



⑧若いピアニストへの手紙
 ―技術を磨き作品を深く理解するために―
 (ジャン・ファシナ 著、江原 郊子、栗原 詩子 翻訳 音楽之友社)

 治療の中期の2007~9年頃入手した記憶がありますが、当初は手の構え方など自分のスタイルや手の形と大きく違う部分があったため、個人的には「治療の上で」あまり合わないと思い、積極的には参考にしませんでした。
 ただ、高度なリハビリの段階になった最近になって読み返すと、プラスに取り入れられる要素が増えており、随時有効だと思われる部分を参考にしています。やはり各自に合う情報やタイミングがあるのですね。


⑨音楽家の身体メンテナンスBOOK
 (ジャウマ・ルセット・イ・ジュベット、ジョージ・オーダム 著、
 中村 ひろ子 翻訳 春秋社)

 昨年入手した本。ジストニアや故障を抱えているか否かを問わず、音楽家がコンディションを維持し高めながら練習し音楽活動をしていく多角的なヒントが詰まっています。



⑩演奏者のカラダストレッチ
 ―りきみをとる、演奏が変わる―
 (荻山 悟史 著 ヤマハミュージックメディア)

 スポーツトレーナーの方の著書。無理なく全身を統合して演奏するため、身体のバランスとコンディションを整えるのに必要なストレッチやトレーニング、呼吸法など。声楽もふくめた楽器別オススメのエクササイズも紹介されています。
 私はフォーカル・ジストニアはその症状の出る部位だけでなく全身のバランスの崩れや緊張、収縮しやすい癖などが原因となっているように考えています。その部位を治すという限定的に固着した意識より、全身に隠れている原因を見出し整えていく広い視野が有効です。



⑪ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム
  (古屋晋一 著 春秋社)

 今年購入してまだ読み終えていない本。普段「感覚」や「イメージ」で行っている演奏時の色々な行為が科学的に検証されていて興味深く、フォーカル・ジストニアに関する記述もあります。



⑫どうして弾けなくなるの?
 <音楽家のジストニア>の正しい知識のために
 (ジャウメ・ロセー・イ・リョベー、
 シルビア・ファブレガス・イ・モラス 著、
 平 孝臣、堀内 正浩 監修、NPO法人ジストニア友の会 翻訳
 音楽之友社)

 今年購入した本。まだパラパラとしか読めていませんが、フォーカル・ジストニアについてのあらゆる情報や知見の詰まった、この病気についての知識を深める上で現在一般的に日本で入手できる本として最重要のものではないでしょうか。フォーカル・ジストニアがいったいどのようなものなのか、どのような症状がありどのような治療・研究がなされているのか。実際に克服した人の闘病記など、総合的なバイブルと言えそうです。
【2014/09/20 13:00】 音楽家のフォーカル(局所性)・ジストニア | トラックバック(-) | コメント(-) | page top↑
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